抗生物質の話
 
突然悲劇はおとずれた・・・・

 それは、普通のいつもの朝の事でした、突然歯が痛みました。
 正確には、歯茎(はぐき)が痛いのです、噛んで歯と歯が当たるとずっしりと痛みました、口を半開きにして上下の歯が当たらないようにしていたのですが、それでも、昼食時には、カレーライスのお米さえ噛めない状態になっていました。

歯医者に行けども・・・・・

 歯医者に早速行って、痛む歯の根幹治療に入ったのですが、翌日は、ますます痛み少し歯茎が腫れました。
翌日も歯医者に行ったのですが、治療後、ますます痛みはひどくなり、腫れも見る間に大きくなりました。
その翌日には、ほっぺたから、耳や目の下まで、外から見てもはっきり分かるくらい腫れて、熱を持ってきました。
ここに至って、その歯科医院での治療は無駄と判断して、口腔外科の門をたたく事になりました・・・・・。

結局抗生物質を服用する事に

 私は過去にもこういう事があって、口腔外科で歯茎を切開して、患部の除去をしてもらった事があったのですが、今回は化膿がひどすぎるので、歯根の穴はふさがず、それとともに歯茎から膿を搾り出す処置をされ、後は抗生物質の服用で化膿の収まるのを待ち後日抜歯という事になりました。しかし、その抗生物質はほとんど効かなかったのです・・・・・・
抗生物質を変更して、疲れないようにぐっすり寝る事に専念しました、すると、やっと、1週間目に腫れは引いてきたのです。
でも、口内炎や、単純疱疹とか出来ました・・・・・・

解説

 私の場合は、レントゲンで歯槽骨が、その部分が無くなっていて、歯が動いてしまうので、炎症が起きたようです。こうなれば、歯を残してもインプラントしても同じ症状が遠からずでてしまいます。やっぱり抜歯後ブリッジを作る事となりました。
 ところが、ここでのテーマは歯の事ではなくて、抗生物質なのです。

抗生物質って・・・・

 抗生物質が初めてできたのは、第二次大戦の頃なのです、時のイギリス大統領フランクリンルーズベルトの肺炎をペニシリンで治したのが抗生物質治療の第1号なのです。
 ペニシリンは、どうやって発見されたかというのを語りましょう。
 フレミング博士という人が、あちこちで微生物を集めて、培養していたのですが、そこに、部下のミスで、ペニシリュウム属のカビの胞子が紛れ込んでしまいました・・・・。
 その当時どうやって、微生物を培養していたのかは、私は不案内なのですが、今では、ブイヨンを溶かした寒天をペトリ皿にひいて固めたものに菌体を付けて、ある一定の温度で菌を増やすのです。そうすると、菌の集落たるコロニーと言う物がペトリ皿にいっぱい出来ます。もし、これに、ペニシリュウム属のカビが入ったなら、カビの胞子の廻りだけ、菌が発育しない部分が出来てしまうのです。
 このカビによって、菌が発育できなかった事になります。
 フレミング博士が、凡人なら、実験を台無しにしたと怒ったでしょうが、フレミング博士は、細菌の発育を阻止する物がカビには存在するという事を発見したのです。その物質は、ペニシリンと名づけられました。
 そもそも、天然界では、細菌同士、真菌と細菌とかの戦いがあり、自分のキャパシティー(餌場)を争って、相手を攻撃する毒素を持っている物だったのです。その後、幾つものカビやコケからも抗生物質が発見されました。
 今では、カビから取るという事はせず、同じ物を副作用低減や効果の増強の目的で化学的に少し構造式を変えて工場で有機合成されています。

私に起こった問題

 私は、ペニシリンが飲めないのです、ペニシリン系の抗生物質に対して、アレルギーがあるのです。もし、事前に感受性テストせずにペニシリンを注射されると、ペニシリン禁の人は死に至る事もあります。
 通常の医院では、内服では、問診、注射では感受性テストという、皮下注射で、注射しても大丈夫か少量の薬品でテストする事になっています。
 ところで、私は、最初ニューキロノン系の薬剤を使用したのですが、効果は殆どありませんでした。その後、マクロライド系抗生物質を使いました。それでも、効果は今ひとつでした・・・・。
 なぜ、抗生物質が効かないのか、それはMRSAというのに代表されるように、抗生物質に耐性のある菌が増えてきたからなのです。
したがって、あまり抗生物質はあてにならないと考えた方がいいのです、原則は病原の除去と、よく休み、自分の免疫力で治すのが原則と考えなくてはならなくなってきました。
 私は、最初の薬品が効かなかった時点で、そう心得ることにして、今回の事態に対処しました。

なぜ口内炎が出るのか・・・・

口内炎という物は疲れた時に出やすいのですが、抗生物質の効能書きにはよく出ています
これは、ビタミンB2の不足によるものなのです
食物からビタミンB2を取り入れる時には腸内細菌も関与しているのですが抗生物質によって腸内細菌が殺されるとビタミンB2の吸収が悪くなる事もあります。下痢という副作用も腸内細菌を殺すからと、腸粘膜でアレルギー反応の起こっている事もあります。

細菌のキャパシティー

何の事かと思われますが、簡単に説明してゆきましょう。

生き物の世界ではよくあるのですが、特定の空間に存在できる生物の数には制限があると
いう事なのです。

例えば、動物のいない草原があるとします。
そこに、草食動物を何頭か放すとします。すると、その動物の数は増殖して増えてゆきます。
しかし、ある程度の数になると増えなくなります。それは、その動物の数に相当する食物が
限られているからです。

 この事は細菌の世界でも言える事なのです。一定の空間には、体積と、生存可能な「餌」の量には、上限があるのです。もちろん、体積と栄養源以外にも、細胞内とか、皮膚表面とか、それぞれの環境によっても
異なります。

 それと、菌が複数いる場合、それらの間には、少ない栄養でも生存可能とか、繁殖力の差、さららには、毒素を出して、他の細菌を抑えるとかいろいろでその環境に適した菌の数の平衡も保たれます。

 一つの環境では、さまざまな菌がお互いをけん制しながら、菌が存在しています。これは、他の生物の生態系と変わりありません。

何故ヘルペスがでたのでしょうか・・・

抗生物質の効能書きを見ると、多くには「菌交代」とか「ガンジダ症」とかの副作用が書かれています。

 これは、天然界では、前述したように、細菌同士のけん制により、生息数に平衡があるのですが、これを抗生物質によって、特定の菌を殺してしまうとその平衡が崩れるからです。

 例えば、細菌を全て殺してしまうと、今まで細菌によって抑えられていたガンジダ等の真菌(カビ類)が何の障害も無く増えてしまうからです。
 真菌は多くの抗生物質は無効なので、細菌が居なくなると、個体数の増殖に必要な空間と栄養原を確保する事が出来るのです。したがって、抗生物質の使いすぎによって、真菌症になる事もあります。

抗生物質のトローチをあまり舐めていると舌が黒くなるのは、舌に細菌が居なくなって、カビ類が
増えているからなのです。
 これと同じように、その抗生物質の効かない菌が居るとその菌のキャパシティーが増えるのです。これを菌交代といいます。

もちろん、細菌同士の菌交代だけではなくて、真菌、ウイルスについても同じです。抗生物質はウイルスには無効ですので、インフルエンザやヘルペスには無効ですのみならず、関係ない細菌を殺してしまうので、かえって、その生息可能なキャパシティーを拡大して
しまう事になりかねないのです。
 また、どの抗生物質も無効になるような、MRSAのような耐性菌のキャパシティーも拡大する事になり、返って期待されたのと逆の効果になるのです。

ろばさんの服薬指導