便秘・下痢治療薬
1.便秘治療薬
便秘とは
 下痢、便秘などの排便異常は、生活リズムや、食生活での食物繊維の不足、腸内細菌の異常が原因で引き起こされますし精神的な原因でも起こります。
 通常、食事をした後は、胃ー大腸反射がおこり、大腸全体で蠕動運動がおきます。このうちでも、朝におきる胃ー大腸反射は1日のうちで最も大きく、ここで排便するのが最も効率的です。
 
 ただ、ここで考えて頂きたいのは、便秘とは何かという事です。食物を摂取すると胃で消化しますが、胃から食物が腸に至るには3〜4時間かかります、そして、小腸は2〜3時間で通過し、大腸には10〜20時間滞在します。胃で消化された食物は小腸を通過して大腸に至るまで液体の状態で、大腸で水分を吸収され固体になってゆきます。
 平均して、食物は24時間で排便される事になります。24時間で排泄されるなら、3食で1日3回排便する事になりますが、平均的には1日1〜2回となります。
 しかし、排便の回数は、便秘かどうかの基準ではありません。平均で24時間で排便されるなら、今日の排便は昨日のものとなるのですが、昨日摂取した食物が全て出たなら、今日の排便が1回でも便秘ではないし、3回の排便があったとしても昨日摂取した食物の半分しか出ていないなら便秘ということになります。
 入る物と出る物の均衡がとれていれば、2日に1度でも便秘ではないこともあります。これは、個人の排便のペースというものです。
 もちろん、便が昨日の分全部出たかどうかは、知る事はできませんが、便がたまって苦しいという事情がなければ2日に1回ということもありえるという事です。

 便秘を訴える人の中には、実は便秘ではなく「1日1回便通がなければならない。」という基準を「そうでなければ便秘である。」と思い込んでいる場合も多いのです。個人によって周期が違いますので、自分の周期が一定していたら必ずしも便秘であると考えなくてもいいのです。

便秘のタイプ
 便秘の原因として、腸管に閉塞があつたり、腫瘍があって排便を妨げているという場合もありますが、このケースは少なく外科的処置が必要な場合もあります。どうしても、便秘が治らない場合は詳しく検査する事も必要でしょう。また、ホルモンバランスが原因の事もありますが、これも産婦人科的な原因が無いかを調べる必要があります。しかし、ここでは、閉塞などや産婦人科的な事は触れません。一般的な便秘に絞ってお話します。

 便秘には、大きく分けて弛緩性便秘と、痙攣性便秘に分けられます。弛緩的便秘というのは、腸管が運動しない場合で、痙攣性の便秘は腸管が収縮して、排便を困難にしている場合です。
 弛緩性便秘の場合は、上述の胃ー大腸反射を利用した朝の排便習慣をつけてゆくのを原則として、薬品を使用する場合は、便を柔らかくする塩類を使用したり、大腸刺激薬を使用します。

 痙攣性の便秘も、上述の排便習慣をつけることはもちろんですが、便秘薬の効果は、あまりあがらない事もあります。このタイプの便秘は、異常な緊張や、少しの物音にも反応するような神経質な反応で排便が阻害されてしまうなどの精神的なものが主な原因ですので、精神安定剤を使用することがあります。

 いずれのタイプの便秘でも、生活リズムの不安定による自律神経の乱れによるものや、食生活での食物繊維不足などの改善も視野に入れなくてはならないのは、もちろんです。

便秘薬の種類
塩類
 塩類は、腸内に水分を移行させる物で、腸内に水分を維持する為便が軟化、増大します。乾燥便に有効です。塩類の下剤は、多量の水分と共に服用すると有用です。
 硫酸マグネシウムは効果は1〜2時間で現れ、高濃度の方が腸管への水分の以降が多いです。酸化マグネシウムは8〜10時間で効果が現れます。一般的に繁用されるのは、酸化マグネシウムです。
 塩類は、電解質の代謝にも影響を与えますので腎障害のある人には注意が必要です。安全性が高く少量であれば妊婦でも使用できますが、多量に使用すると胎児のマグネシウム中毒を招く事があります。

膨張性下剤
 バルコーゼ、寒天、小麦フスマなどで、便を多量の水分で膨張させるものです。弛緩性便秘に有効ですし、習慣性も無いのですが、作用がゆつくり現れますので他の便秘薬と併用することが多いです。
 早流産をおこす事があるので妊婦には慎重に与薬することになりますし、狭窄性腸疾患には使用できません。作用は10〜24時間で現れます。

糖類下剤
 ラクツロースは、糖類が2つ結合した二糖類で、未変化のまま大腸に達し、腸内の水分を増やし、さらに、腸内分解で発生した有機酸によって腸の蠕動運動が亢進します。小児の便秘にも使用されます。しかし、糖尿病の人は血糖注意しなくてはなりません。
 商品としては、モニラック、ピアーレ、ラグノスなどがあります。8〜12時間後に作用が現れます。

大腸刺激性便秘薬
 センナ、大黄、アロエなどの植物成分が、これに当たります。アントラキノン系の成分が胆汁で加水分解され、小腸から吸収され血行または直接大腸に移行して大腸の粘膜を刺激します。大黄以外は痙攣性便秘には使用してはいけません。腹痛などが副作用です。
 ヨーデルS、アジヤストA、アローゼンはセンナです。あまり重症の硬結便、急激な腹痛、痙攣性便秘には使用しない方がいいでしょう。
 センノシドもセンナの成分ですが上述のセンナと同じ注意が必要です、商品としては、プルゼニド、センノサイド、セノコット、センナシド、フォルセニッドなどがあります。作用は8〜12時間後に現れます。
 大黄は、副作用が少なくて、小児、老人にも使用できますが、長期連用で逆に便秘になります。
 アロエは、大量に使用すると、骨盤内臓器充血がおきることがあります。
 ラキソベロンも、大腸刺激性下剤です。痙攣性便秘にも使用できます。作用は7〜12時間後に現われます。
その他
 新・レシカルボン座薬は炭酸ガス発生による生理的排便に近いので小児、妊産婦にも使用可です。
 浣腸は依存性がありますので、漫然と使用するべきではありません。

2.下痢治療薬
下痢の原因
 下痢は、腸管の水分吸収不全、腸蠕動の異常亢進や細菌の感染症によって起こります。また、胃、小腸の疾患や大腸炎、膵炎、胆嚢炎などでも起こります。
 基本的には、下痢は、有害な異物を体外に排出する生体防御反応ですので、無理に止める事は好ましくない事もあります。
 下痢には、一般的に腸内細菌を調節するため乳酸菌製剤を服用します。また、必要に応じて腸運動を抑制するものや、有害物質を吸着するもの、または殺菌剤を使用します。

 消化器の異常の場合は、胃炎などの治療を行います。胃炎、胃潰瘍の主病の治療薬に乳酸菌製剤を併用します。例えば、消化不良性下痢の場合、黄色い浮遊物の多い油分の多そうな排便となりますが、これは、脂肪分が未消化のためで、この場合は消化酵素を服用して胃の負担を軽減すると改善します。

有害物質が侵入した場合
 腸管の異常運動亢進は、有害物質を排泄する反応である場合もありますし、ストレスなどの精神的な原因で起きることや、生活リズムの乱れなどによる自律神経失調の場合もあります。
 まず、有害物質が原因の場合は、無理に下痢を止めず、電解質をスポーツ飲料や、重症の場合は点滴で補いながら1〜2食絶食します、そして消化のよいものから徐々に食事を再開します。
 天然ケイ酸アルミニウム(アドソルビン)は、吸着薬で、有害物質や過剰な水分や粘液を吸着して除去します。このとき、吸着によって体積が増えますので胃部膨満感が出る事があります。

蠕動運動の異常亢進
 上述のように、蠕動運動の異常亢進という場合は過敏性腸症候群や、ストレス、精神的な要因もあります。とりあえず、消化管運動を停止させるには、中枢神経に作用して消化管運動を停止させる薬剤か、抗コリン剤を使用します。
 中枢神経に作用して腸の蠕動運動を停止させるものには、リン酸コデインと塩酸ロペラミド(ロペミン)を使用します。塩酸ロペラミドは強力な蠕動運動抑制作用があります。しかし、細菌性の下痢や、抗生物質が原因となった下痢の場合は、絶対に使用してはなりません。
 細菌などが排出されるのが妨げられるからです。ここで、蠕動運動を無理に止めると、細菌が、その場にとどまってしまうからです。
 抗生物質を服用してから下痢した場合も、腸内細菌を不必要に殺してしまったか、腸粘膜でのアレルギー反応の場合もありますが、抗生物質による儀膜性大腸炎の場合もあります。
 抗生物質を使用すると、正常な大腸菌を死滅させる事になり、菌同士の勢力バランスが狂いC.ディフィシル菌が増殖し、C.ディシフイル菌の毒素によって大腸炎をおこします。
 したがって、この場合も菌や毒素を滞留させないために蠕動運動抑制剤は使用してはならないのです。
 上述の有害異物の場合も、蠕動運動抑制剤は使用できません。
 腸内細菌のバランスを整えるために、乳酸菌製剤を与薬するにとどめて、上述のごとく絶食と電解質補給をメインに考えます。
 なお、塩酸ロペラミドなどは、無理に腸管の蠕動運動を止めているだけです、便秘するに至ってはただちに服用を停止するべきです。

 つぎに、抗コリン剤ですが、抗コリン剤というのは副交感神経抑制剤のことです。副交感神経末端の神経伝達物質はアセチルコリンです。そのアセチルコリンを阻害すると、副交感神経の作用が抑制されるのです。消化器官は、副交感神経が興奮すると収縮し、交感神経が興奮すると弛緩するのを利用したものです。
 抗コリン剤は、下痢止めとしては、直接使われることは少ないのですが、精神的な原因や、過敏性腸の場合は臭化メペンゾラート(トランコロン)などが使用されます。また、胃炎治療薬で使用されるロートエキスや臭化ブチルスコポラミン(ブスコパン)なども効果があります。
 しかし、抗コリン剤は、副交感神経が抑制されると症状が悪化する病気のある人には使用しない方がよく、緑内障、前立腺肥大、麻痺性イレウス(イレウスとは、狭窄など狭くなっている事です)などの人には使用しません。

細菌が侵入した場合
 食中毒の場合は、抗生物質や抗菌剤を用いますが、原則として、相手の細菌の特定をしなければ重症化することもあります。まず、食中毒は後述することとして、ここでは一般的に食中毒に至らない場合の下痢について考えます。基本的なことは上述(蠕動運動の異常亢進の項参照)しましたので、薬剤のみ紹介します。
 塩化ベルベリンは、市販薬で繁用され、殺菌作用のほかに、蠕動も抑制します。副作用は便秘くらいです。
 そのほか、ニューキロノン系の殺菌剤が使用されることがあります。ニューキロノンは感冒や抜歯後の感染予防など抗生物質と同様に使用されますが、下半身へ移行するものが多く、腸内の感染や尿路感染などに繁用されます。オフロキサシン(タリビッド)やレボフロキサシン(クラビッド)、トシル酸トスフロキサシンなど多数あります。
 しかし、ニューキノロン製剤は、抗生物質同様に、ショックなどのアレルギー反応、過敏症、腎障害、肝障害、血液障害などの副作用にも注意しなくてはなりません。

その他
 収斂剤とは、腸粘膜蛋白と結合して粘膜面を覆い、分泌と刺激を抑制して、炎症や腸蠕動を抑制するもので、タンニン酸アルブミン、次硝酸ビスマスがあります。次硝酸ビスマスは、腸管に損傷のあった場合亜硝酸中毒になることがあります。
 乳酸菌製剤は、乳酸菌の補給により、腸内細菌のバランスをととのえるものです。ラックビー、ビオフェルミン、ミヤリサンなど多数の商品があります。副作用はほとんど無いのですが腹部膨満感があることがあります。なお、ビオスリー、アンチビオフィルス、ラックビーR、エントモール、エンテノロンーR、レニベン、コレポリーRなど牛乳アレルギーの人は服用できないものもありますので注意してください。
 小児は通常乳糖の分解酵素が働くものですが、乳糖分解酵素の量が少ないなどの原因で下痢する事があります。この場合は乳糖分解酵素を使用します。ガランターゼ、オリザチーム、ラクチーム、ミルラクトなどですが、ショック(重大)、発疹、便秘、嘔吐などの副作用があります。
 過敏性腸治療薬のコロネルは、水分を吸収してゼリー状になり、下痢の症状を緩和します。また、ゼリー状になることで便秘にも効果があり、下痢・便秘両方に使用できますが、胃炎治療薬の制酸剤や下剤の項で述べた酸化マグネシウムなどのアルカリ製剤とは同時に使用しません。

3.食中毒
食中毒概説
 食中毒は、原因菌がある一定の数量にならないと発病しません(O157のような例外もありますが)。基本的には新鮮なものを食べる、よく洗う、よく加熱するするなどの一般的に菌が増殖しないような注意が必要です。また、食中毒菌は口から入りますので、手洗いや食器、調理器具にも注意するべきです。意外なものとして、包丁の柄の根元が不潔になったのが原因という場合もあります。食中毒は一般の家庭では処理できませんので、ここでは主な食中毒菌の概略のみ述べます。

腸炎ビブリオ
 我が国の食中毒の半分以上はこれです。塩分を好み、魚介類についています。また、魚介類を介して野菜などが汚染する事もあります。対策としては、流水(真水)でよく洗うことです。熱には弱く、80度10分、100度で即時殺菌できます。
 潜伏期は10〜18時間で、上腹部痛があり、その後嘔吐、下痢、発熱、倦怠感が出ます。死亡率は0.05%です。

サルモネラ
 サルモネラ菌は、哺乳類、鳥類など広く分布しています、サルモネラに感染した動物を介して食品が汚染される場合と、その動物の排泄物によって汚染される場合があります。肉類と卵が汚染される事が多いのですが、魚介類、穀物、野菜なども感染源になりえます。
 実際には、ねずみ、ハエ、ゴキブリを食品にふれさせないようにしなくてはなりません。
 潜伏期間は、10〜24時間で、腹痛、下痢、発熱(40度近く)、嘔吐、倦怠感があります。死亡率は2〜3%です。

ブドウ球菌
 ブドウ球菌は、人が怪我をしたときに傷口に繁殖し、人の手・指から感染します。風邪をひいたときの咳からも食品が汚染される事もあります。ブドウ球菌の毒素であるエンテロトキシンは熱に強く210度30分以上の加熱がひつようですので、普通の家庭では、食材が汚染されれば加熱しても毒性は消えません。傷のある手調理しない、風邪をひいている人は調理しないか、咳やくしゃみが食材に触れないように注意しなくてはなりません。
 潜伏期は3時間程度です。嘔吐が必ず出ます(これが特徴です)。腹痛、嘔吐、下痢が主症ですが、熱はあまり出ません。
 
病原大腸菌
 これは、人の糞便からの感染となるのですが、対策としては、きっちりとした手洗いです。
 潜伏期は、10〜12時間で、下痢、嘔吐、頭痛、発熱、が現れます。
 病原大腸菌O157は、これに加え、出血性の下痢があり、致命率も高いです。また、O157は、少量の汚染でも発病します。徹底的手洗いと、食品の加熱(75度1分以上)が対策となります。また、二次感染を防ぐ為、感染の疑わしい人は風呂で浴槽に入れないなどの対策も必要です。

ボツリヌス
 ハム、ソーセージのほか、嫌気的な密閉された食材(缶詰など)で起こります。一応熱に弱く80度15分で無毒化します。
 潜伏期は、12〜18時間で、悪心、嘔吐、瞳孔散大、言語障害、嚥下困難、歩行困難、呼吸困難などが現れます。致死率は26〜30% です。
ろばさんの服薬指導