副腎ホルモン剤
1.副腎ホルモン総説
 副腎皮質ホルモンはステロイドホルモンと言われますが、これは化学構造式でステロイド核を持つからです。化学構造に由来する名称なのです。ステロイド核はコレステロールから合成されます。

 副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンは、30種以上もあるのですが、主なものは、糖質代謝に関与する糖質コルチコイドと鉱質代謝に関与する鉱質コルチコイドです。
 しかし、この分類は相対的なもので、ステロイドホルモンは共通の作用があり、ただ物質によって作用の強弱が違うというにすぎません。


 副腎ホルモンは、体内では広範な器官や機能に対して作用します。副腎皮質から分泌されたステロイドホルモン(以下ステロイドと省略します)は、体内の各器官に血流に運ばれてゆき、対象の器官に到達します。
 効果を受ける器官にはステロイドの受容体(レセプター)があり、ステロイドはそれとと結合します。そして、ステロイドと受容体が結合した物は、細胞核に入りDNAからmRNAへのコピーを抑制したり、場合によっては促進したりコントロールします。これによって、副腎ホルモンは、さまざまな作用を発現します。

 体内の細胞の形成や各種分泌物は蛋白であるか、合成された蛋白によって分泌物を合成します。必要に応じて細胞が蛋白を合成する時は、DNAの情報をコピーして、そのコピーをもとにリボソームで蛋白を合成します。このコピー情報を伝達する物をmRNAといいます。また、mRNAはコピーそのものでもあるのです。

 医薬品としてステロイドを利用する場合に注目するべき作用は、やはり抗アレルギー作用で、サイトカインや抗体の産生を抑制し、細胞性免疫を低下させ、胸腺、リンパ節などの免疫組織を萎縮させ、リンパ球、好酸球も減少させます(好中球は増加)。ここでは、免疫を全体的に抑制するものだと考えてください。
 また、ステロイドには抗炎症作用が強いということも注目されています。これは、生体に炎症という現象がおきるのに必要なプロスタグランディンの合成を阻害することによるものと考えられています。
 下の表にステロイドの主な作用を書いてみました。
糖代謝 末梢組織での糖代謝を抑制。肝臓でのグリコーゲンの合成促進
蛋白代謝 蛋白合成抑制。尿へのアミノ酸、尿酸排泄促進。
脂質代謝 血中脂肪酸増加
電解質 カリウムの排出促進。血中ナトリウムは上昇。
中枢神経 運動、知覚神経は興奮するが、味覚、嗅覚は低下する。
心臓 収縮力、拍動数ともに上昇
胃液分泌促進
内分泌 成長ホルモン、甲状腺刺激ホルモン分泌抑制
インスリン分泌促進
 ステロイドには上表以外にも沢山の作用がありますが、あと重要なものには抗ストレス作用があります。

2.副腎ホルモン剤の分類
 ステロイドホルモンには作用時間が短いヒドロコルチゾンと、作用が強力で持続時間の長いベタメタゾン、デキサメタゾン、そして、その中間型のプレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、トリアムシノロンがあります。
 ステロイドホルモンの錠剤は、ヒドロコルチゾン20mg(成人の1日の分泌量)と同じ力価で製造されていていますが商品によって1錠でビドロコルチゾン20mgにあたる物と、2錠でビドロコルチゾン20mgにあたる物があります。
短期作用型 ヒドロコルチゾン
中間型 プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、
長期型 ベタメタゾン、デキサメタゾン
次に、病名別のおよその用量ですがプレドニゾロンとしての量では、気管支喘息、慢性リウマチでは10mg以下(症状により30〜60mg)、膠原病で40〜60mg、薬物アレルギーや、各種皮膚疾患で30mg程度です。
 但し、ショックなど重篤な場合は、1000mgとかいう場合もあります。

2.副腎ホルモン剤の副作用
 ステロイドの副作用は、上述のステロイドの作用で治療に関係ない作用が副作用と捉えられます。具体的に問題となるのは、免疫抑制作用による感染症の誘発や悪化でしょう。さらに、糖質、鉱質の代謝への影響として糖尿病の誘発、悪化、動脈硬化、骨粗しょう症があげられます。
 それと、軽度のものとして、異常脂肪沈着(ムーンフェイス、中心性肥満など)、高血圧、浮腫、不整脈、うっ血性心不全、緑内障、皮下出血、皮膚萎縮などがあります。
 女性の場合、月経異常もみられます。

 ステロイド剤の服用によって、本来の副腎からのステロイド分泌は停止します。それは、血中のステロイドの濃度が増えると、それを感知して脳下垂体前葉からのACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されなくなるからです。さらに、分泌停止状態が続くと、副腎皮質は仕事がないので萎縮してゆきます。
 この点で問題になるのは、ステロイドの中止です、体内でステロイドが分泌されていない状態でステロイドの服用を停止すると、過剰な免疫反応を止めるものが無いので、ショックを起こしたり、アレルギー症状が急激に悪化します。そこで、ステロイドの服用停止は、徐々に用量を減らしてゆくという方法をとります。決して急にやめてはいけません。

 ステロイドは少量で作用を発現しますので、外用薬でも経皮的に吸収されたものから全身的副作用は起きます。近年では、血中に触れると、その場で分解してしまい、全身的副作用を回避できるものもありますが、ベタメタゾンやデキサメタゾンのような強力なものは、皮膚萎縮、ステロイド皮膚炎だけでなく全身的な副作用も発現しますので、「よく効く。」という理由だけで安易に利用するのは避けなければなりません。
 本来皮膚疾患は、病状の推移とともに薬品の強さも使用する薬品の種類も用量も変わってゆくものです、患部の状態によって軟膏、クリーム、ローションなどの剤形も変化してゆきます。同じ薬を漫然と使用する事は少ないのです。専門の皮膚科医の細かい指導によって使用しないと事故がおきる場合があります。
ろばさんの服薬指導