呼吸器の治療では、気管支を拡張して気道を確保する必要があります。気管支を拡張する方法としては、自律神経を利用する方法と、キサンチン誘導体を利用する方法があります。
キサンチン化合物
キサンチン誘導体というと、一般にはあまり聞かない単語ですが、カフェインの親戚みたいなものなのです。コーヒーには、カフェイン、緑茶、紅茶にはカフェイン、テオフィリン、ココアには、カフェイン、テオブロミンが入っています。
カフェイン、テオブロミン、テオフィリンは、化学構造式としてキサンチン骨格を持っていて、側鎖で一部違うだけの同系統の物質です。この3物質の作用の比較をしてみますと下のようになります。
中枢神経興奮 |
カフェイン>テオフィリン>テオブロミン |
気管支拡張作用 |
テオフィリン>テオブロミン>カフェイン |
心筋興奮作用 |
テオフィリン>テオブロミン>カフェイン |
利尿作用 |
テオフィリン>テオブロミン>カフェイン |
中枢作用はカフェインが強いのですが、気管支拡張作用は、テオフィリンの方が強いです。医薬品としては、カフェインとテオフィリンが使用されていますが、上の表で分かるとおもいますが、テオフィリンには気管支拡張作用以外に直接心筋に作用して収縮力を高めますし、脳血管や末梢血管が収縮させます。しかし、腎血管は拡張するように働き、先の心筋に対する作用とあいまって利尿作用となります。
また、これらの物質は、骨格筋興奮作用もあります。骨格筋に対する作用はカフェインが最強なのですが、これは中枢興奮作用にくわえて筋肉への直接作用もあり筋肉疲労しにくくなります。
テオフィリンは、現在でも気管支喘息に最も使用される薬品のひとつなのですが、上述のように体のいろいろな部分に作用しますので、気管支以外への作用は副作用ということになります。
キサンチン化合物について詳述しましたが、これは、一つの物質は、体の様々の器官に作用してしまうという事を理解して頂きたかったからです。
また気管支拡張が目的なら、強心作用は副作用ということになり、強心作用を目的としたなら気管支拡張が副作用ということになります。このように、治療目的や見方によって、ある物質の体全体への作用が主作用と考えたり副作用と考えたりするのです。
それゆえ、ある薬品の使用に関しては、他の作用、他の臓器にも配慮しなくてはならないのです。
一般の人で、よく「効果が無い。」と言って、指示された量よりも多くの量を勝手に服用する人がいますが、目的とする器官では、その量でも安全かもしれないけれど、他の器官では安全でないこともあるのです。
気管支平滑筋でcAMP(サイクリックAMP)の増加があると、気管支は拡張するのですが、キサンチン化合物はcAMPを増加させて気管支を拡張します。キサンチン化合物がcAMPを増加させる理由について学説の争いがありますが専門的すぎるので、ここでは省略させていただきます。
キサンチン誘導体の薬品には、ネオフィリン、テオコリン、テオドール、テオロング、スローピッド、ユニフィル、ユニコンなどがあります。
これらの薬は、勝手に増量したりすると、上述のように不都合な事があります。医師に現在の状況を伝え、吸入薬の併用などを検討してもらってください。
自律神経によるコントロール
自律神経を利用して、気管支平滑筋をコントロールします。自律神経には、交感神経と副交感神経があり、それぞれ拮抗的または、協力的に働きます。
体内のあらゆる器官が自律神経によってコントロールされています。気管支平滑筋についていうと、交感神経が興奮すると気管支は拡張し、副交感神経が興奮すると気管支は収縮します。
そこで、気管支を拡張するためには、交感神経刺激薬が使用されます。神経と神経のつなぎ目、神経と器官のつなぎ目をシナプスといいます。
シナプスでは神経細胞末端からは神経伝達物質が出ます(エキソサイトーシスといいます)。この神経伝達物質は、作用期間側の受容体(レセプターといいます)に作用します。
神経伝達物質(この場合は、アドレナリン)がレセプターに結合したら、アデニレートサイクレースという酵素が活性化して、サイクリックAMP(cAMP)が生産されます。cAMPが生産され、cAMPの濃度が上昇すると気管支は拡張します。このとき、cAMPは肥満細胞にも作用してヒスタミンなどのエディエター(生体防御反応のための伝達物質)の遊離を抑えるのですが、これはまた別記事で述べます。
気管支に対しての自律神経作動薬は、神経と効果器官との間のシナプスで、アドレナリンの代わりにレセプターに結合して自律神経が興奮したのと同じ効果を得ます。
このように、交感神経の末端から効果器官への伝達で、アドレナリンと同じようにレセプターを刺激する物質を一般にアゴニストと言います。逆に、アドレナリンがレセプターに結合するのを妨害する物質をアンタゴニストといいます。
ところで、自律神経のシナプスの受容体を刺激したとして、殆んどの器官が自律神経の支配を受けているので、他の器官のレセぷターも刺激されないかが問題となります。
もちろん、それはあります。しかし、自律神経の受容体は、どれも同じように反応するわけではありません。アドレナージックアンタゴニスト(交感神経の受容体を興奮させる物質)を与薬したとして、一部のレセプターしか反応せず、アゴニストの物質によって反応するレセプターが違うという事がわかったのです。
アドレナリンなら、全てのレセプターが反応するけれども、体外から与えた物質では、一部ののレセプターしか反応しないのです。それで、レセプターにはα1、α2、β1、β2の4種類に分類できることが分かりました。気管支平滑筋にあるのは、β2レセプターです。
β2レセプターのみを刺激する物質をβ2アゴニストといいます。β2アゴニストの作用は気管支拡張以外に、血管の弛緩、子宮弛緩、インスリン分泌刺激などがありますが、近年は、できるだけ気管支のみの選択性を高めようと努力されています。しかし、他のβ2レセプターも刺激してしまうのは否めませんし、それが副作用ということになります。
β2アゴニストとして、使用されるのは、エピネフリン(アドレナリンの正式名称)、エフェドリン、ストメリン、アロテック、メプチン、ベネトリン、ベロテックなど多数あります。
内服薬以外に吸入薬も多く、ホクナリンのように、外皮吸収型のテープタイプもあります。
β2レセプターは、心筋にもありますので、これらの医薬品は心臓にも影響がありますので、やはり容量は守っていただかなくてはなりません。
近年は、喘息を気管支の炎症と考える説が有力になり、炎症を抑えるのを目的として副腎ホルモンを積極的に使用するようになりました。
交感神経抑制剤
副交感神経と反対の作用をして器官をコントロールしているのが副交感神経です。気管支拡張には、交感神経を興奮させるか、副交感神経を抑制すればいいのです。
しかし、副交感神経を抑制すると、気道分泌も抑えてしまうことが問題になりました、しかし、こちらも、気管支への選択性を高めて、気管支以外の器官には作用しないような物質が考案されました。
今のところ内服ではなく、吸入薬としてテルシガン、パルシガン、アトロベント、フルブロンがあります。
副交感神経抑制剤(コリナージックアンタゴニスト)は、その場で発作を抑えることはできません。定期的に1日3回吸入することで気管支喘息や気管支炎の症状を抑えます。
交感神経のβ2レセプターは加齢とともに減少しますので、β2アゴニストの効果は少なくなります、しかし、副交感神経のレセプターはあまり減少しませんので、β2アゴニストで効果があがらない場合に効果が期待できるのです。
気管支喘息は、現在では気道の慢性炎症と考えられています。対症療法としては、上述の気管支拡張剤で対応するのですが、気道の炎症に対しては副腎ホルモン剤が積極的に使用されます。
しかし、副腎ホルモンを外界から摂取することによって、本来の副腎皮質は働かなくなり、副腎皮質萎縮を招くのではという問題もあります。
そこで、局所に吸入薬で使用し、その場で分解されてしまい、副腎ホルモンとしては血中に乗って他器官に移行しないようなものが考案されました。
そうして開発されたプロピオン酸ベクメタゾン(アルデシン、ベコタイド)ですが、やっぱり1日1000μg以上使用すると副腎皮質の機能低下があるという報告もあります。
副腎ホルモンは、強い抗炎症作用がありますが、免疫力を抑制する物ですので、ガンジダなどの感染症も問題となります。
気道の炎症の原因としては、主に、アレルギーが原因とされています。それで今日では抗アレルギー剤を使用することが多いです。抗ヒスタミン剤も効果があることがあります。
原則として、アレルギーの治療の基本は、アレルギーの原因物資(アレルゲン)を遠ざける事ですので、薬物だけに頼るのには限界があります。
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