中枢神経治療薬
1.向精神薬
 最近は、「向精神薬」という言葉を聞いた事がないでしょうか?新聞などで睡眠薬などの窃盗事件があると、「麻薬および向精神薬取締法」というものが出る事もあります。
 昔は麻薬取締法だったのですが、向精神薬も含めてその法律で取り締まる事になりました。刑罰は麻薬の半分の刑期ですが、医師から処方されて、治療の為に、一般に広く出回っていますので、麻薬ほどの厳しい取り締まりはありませんが、管理は厳重になっています。
 前置きが長くなりましたが、向精神薬とは中枢神経に作用して精神機能に影響をおよぼす薬物の総称です。
 向精神薬は、統合失調症(旧名称;精神分裂病)の治療に使われる抗精神薬(メジャートランキライザー)と、抗うつ剤とか抗不安薬と言われるマイナートランキライザーに分類できますが、抗うつ剤や抗不安薬などの細かい分類は、書物によっていろいろ書かれていますが、実際に分類が困難な場合があります。
 今の所、精神伝達物質の1つであるドーパミンを阻害する事によって、その作用は発現されるとされていますが、いろいろな説があり、本当の所は現在でもよく解明されていません。
 最近では、神経伝達物質のセロトニンの作用を増強する薬が大きな成果を挙げています。

 中枢神経作動薬は古くはアルコールや麻薬等が使われました。
 しかし、中枢神経作動薬の開発のきっかけとなったのはラウオルフィアアルカロイドの研究によってです。ラウオルフィアアルカロイドは、ドーパミンを神経伝達物質とする神経末端で、ドーパミンを枯渇させて、神経伝達物質を放出(エキトサイトーシス)出来ないようにする働きがあります。そうすると、人間は、静穏作用でおとなしくなり、うつ状態となり、悲観的になります。これにより、神経伝達物質の量をコントロールして精神症状をコントロールできる事が分かってきました。
 なお、このアルカロイドは、現在では血圧降下に使用されていますが、一般ではあまり使用されなくなりました。
 
 中枢神経の伝達でも、自律神経の末端と同じように化学的な伝達物質によって伝達されます。
 興奮系はドーパミン、抑制系はグリシンが言われますが、最近はセロトニンがクローズアップされています。
 中枢神経の作用というものは、未だにその原理が解明されていませんが、とりあえず、神経伝達物質を抑制したり、増強したりして調節しようとするのが多いです。
 
 例えば、セロトニンという神経伝達物質がありますが、セロトニン作動性神経の中でセロトニンの分泌がうまく行かず、セロトニン作動神経の伝達がうまく行かない場合。人はうつ状態となったり、いろいろな事に不安を覚えたり、脅迫概念にさいなまれたり、人との交流がうまくいかなかったりします。
 動物実験では、仲間とは離れて交流を持とうとせず、自分の子供さえも撥ね付けてしまうサルが居ましたが、これにセロトニン再取り込み阻害剤を与えると、そのサルは、子供を可愛がるようになり、仲間のサルとも交流を持つ事が出来るようになりました。
 人間に対しても、セロトニン再取り込み阻害剤は有効で、欧米では最もよく使われている抗うつ剤となりました。

2.統合失調症治療薬
 統合失調症(旧名:精神分裂病)は陽性症状陰性症状があります。陽性症状は正常な精神機能の過剰と歪みで、陰性症状は、正常な機能の低下、欠損を特徴とします。

 陽性症状ー妄想、幻覚、幻聴、思考障害、奇異な行動
 陰性症状ー情動の鈍磨、会話の乏しさ、快感消失、非社会性


 ただし、この陽性症状、陰性症状というのは、典型的な例で、個々の患者によってこれらの症状が複合して現れますので一概には言えません。
 統合失調症の原因は、今でもよく分からない事が多いのですが、統合失調症に発病しやすい脆弱性が先天的にあり、脆弱性を持った人がさまざまなストレスを受ける事により発病するのではないかと考えられています。先天的原因としては、中枢神経へのウイルス感染、出生前の母体の飢餓や、妊娠中期でのインフルエンザの感染、などが考えられています。
 精神病は、脳内の伝達物質が生産されなかったり、分泌(エクソサイトーシス)が充分でないという場合や、分泌が過剰である場合ですので、脳細胞間での神経伝達物質を阻害したり、神経細胞のポストシナプテイクサイト(神経物質を受ける受容体のある側)を刺激したりして調整します。

 一般的に、治療薬は単品を少量から開始して短期間に増量してゆきます。精神状態の改善までは大量を維持して社会復帰の段階で減量して、症状消失後も少量を維持します。
 症状の改善は、服薬6〜8週で現れますので、効果が無くても6〜8週は様子をみて、それでも効果が無ければ他剤に切り替えます。
 頻繁な薬品の変更や、与薬量の急激な変更は、悪性症候群などの副作用を誘発することもあります。
 (悪性症候群:錐体外路症状(不随意筋のコントロール不全)自律神経症状、発熱、筋拘縮などが出て腎不全などで死に至ることがある)
 それゆえ、自分で勝手に増量したり減量したり、中止してはいけません。正直な症状を医師に伝えて支持を受けなくてはなりません。

 まず、多くの抗精神病薬は、陽性症状に有効なのですが、一般的に陰性症状にはセロトニン、ドーパミン阻害剤以外は有効性はありません。
 セロトニンと、ドーパミンは脳内神経の伝達物質です。これらを共に阻害して、伝達を妨害します。リスペリドン(リスパダール)が使用されます。

 その他の薬品として、クロルプマジン(コントミン)は幻覚、妄想の激しい場合有効ですし、ハロペリドール(セレネース)は、睡眠作用は弱いですが抗精神病作用は強く、老人の夜間せん妄にも効果があります。
 スルピリド(ドグマチール)は、胃潰瘍治療薬として開発されましたが、副作用も少なく、中用量で抗うつ作用、大容量で抗精神病作用があります。

ろばさんの服薬指導