医療改革(5)

20点ルール
 年頭は、20点ルールという保険請求についてです。

今年の3月には、医療改革があります。そして、4月から施行される事が決まっていますが、中身はまだ決まっていません。
 医療改革では、いつでも思うのですが、施行の前の月まで内容が決まらない。決まったとしても、勝者も敗者もない決着を見るというものですね。
 医療費抑制策で、薬を出す種類数の上限を決め、ビタミン剤も保険適用除外という事を決めても、実際にビタミン剤は薬価表に載っていますし、20点(200円)未満の内容の投薬について、病名、薬品名は記載しなくていいという20点ルールで、殆どどんな薬でも保険が通ってしまうのです。
 保険請求の半分近くはこの20点ルールによってなされていますので。レセプトの審査は無いに等しいのです。
 ある事を決めても、それに対するザル法がちゃんと意図的に用意されていて、お互いに損のないようになっているのです。
 医療改革については、こんな事が何回も繰り広げられてきました。
 20点ルールについては、その弊害が多いと思います。
 理由としては、医師の不適切処方をチェックする機会が失われてしまうという事。または、減点を免れる為の脱法行為を許してしまうという事。
 さらには、内容を公開しなくていいし、保険請求でも、点数のみ記載して、内容は書かなくていいために、不正請求の温床となる等の問題点があります。
 逆に20点ルール撤廃によって、医療機関は大打撃となりますね。
 20点以内なら、何種類でも投薬できるというので、本当は安い薬を数種類出して、それを1つの20点で請求という事も出来るのです。そして、その20点を複数出すのです。
 しかし、医療側のみが悪いのでは無く。病名にかかわらず、一人の患者に対して、5種類という制限をしてしまう国の方にも問題があります。
 老人医療の場合、血圧、糖尿、腰痛などは普通にもっていますし、胃腸、肝臓などの悪い人も珍しくなく、5種類なんて簡単に越えてしまいます。
 患者の状態にかかわらず、単にお金が無いという理由で、医学的考察を考慮せずに、露骨に医療費抑制をしてきます。
 思うに、20点ルールと、投薬制限はともに撤廃するべきです。
 なぜなら、患者の病状はケースバイケースであり、一律に、投薬は何種類までというようには決められないように思います。
 また、20点ルールの撤廃によって、全ての医療内容を医療機関に公開させる事により、レセプト審査のうえで、投薬の適否を決する事により、過剰投薬や不適処方をチェックする方がいいわけです。
 その事によって、間接的に患者を守る事になり、医療の適正化が図れると思いますがいかがなものでしょうか。

(2002年1月11日 記)

  医療改革(6)

医療の合理化とは
 医療費抑制策に対して、マスコミは肯定的に報道していますが、医療改革は、かなり前から段階的、継続的に行われていて、人員配置もギリギリで、当直医、看護婦の員数の不足から、研修医の過労死、看護婦の過密スケジュールが報道されるところです。
 医療ミスは、現在の過酷な労働環境と、無関係ではありません。それなのに、医療費は高いと言われ、合理化自由化が叫ばれています。
 しかし、無い袖は触れません、特に医療が放漫経営をしているわけでもないし、過剰人件費を払っているわけでもありません。
 医療の合理化とは、どういうものなのでしょうか。一般的に合理化とは、経営効率の悪い部署の削減とか、人件費抑制を言われます。
 まず、人件費抑制については、医療機関の人員は法律によって基準があり、この基準は劣悪な医療から患者を守るという働きがあります。
 実際は、現在の医療機関の人員は、基準を下回っている所が殆どです、経済的にも、患者に対する医療機関の数や、有資格者の数からして、現在、直ちに法律上の員数を満たす事は不可能に近いので、何年間かは、経過措置として、ある程度は法定の員数を下回ってもかまわない事になっています。
 それでも、殆どの病院は赤字なので、経過措置の期限が迫ってきて、員数を法定どおりにするとどうなるかは不安です。
 大体、1人の医師が1日に最大で何人の患者を診察可能なのかという事と、その診療報酬で1日の収入見込みは見積もれるし、1日あたりの人件費が法定人員を満たしたときどうなるのかという計算は出来ると思うのですが、また、そうしたら経営が成り立たない事も分かりそうなものですがね。
 ある意味では、今の数字は計算されているらしく、例えば薬剤師の法定員数は患者数に対して減らされているのです。
 薬剤師に求められる仕事は増えているのに、基準とされる人数は減らされ、サービス残業現象が起きつつあります。
 これは、現実の医療ミスが起きない程度の人員配置よりも少なくていいと、現実を無視した経済的理由による法改正となっています。

 医療改革は、高齢化社会の到来が見込まれるので、もっと以前から対策されるべきだったのに、増税も、保険料値上げも、無駄な特殊法人の廃止も、とるべき措置は、全て先送りされてきたために、今になって急激な改革を余儀なくされます。
 もちろん、医療機関への締め付けは、ここ10年あまりに渡りなされましたが、それ以外のものは先送りされてきたのです。
 殆ど、万策尽きているのです。抵抗勢力との話し合いによって妥協的な結論を出してしまうという事は、歯がゆいのですが、医師会との話し合いは、毎年妥協点を模索しながら少しずつ話が進むのは、民主主義的話し合いでは、当然のことですし、また、医療機関の9割が赤字である以上、医師会の要求は医療の存続をかけて譲れないものがあります。
 医療が潰れるか、保険制度が潰れるのかの二者択一の段階に来ていると思います、医師会としては、患者の生存権を守るためには、保険制度の存続に協力するしかなく、ここ10年余り妥協をして来ました。
 また、医師会以外には、保険料を支払う側という抵抗勢力もあり、この不況下に急激な負担増加は容認できないという理由があります。また、国民健康保険料が生活苦から支払えず、保険証を没収されて、医療機関にかかれずに病死してしまうという事態も起きています。
 このような事態になってしまったのは、一重に国会の不作為であり、行政の責任も大きいです、しかし、現在を見る限り、国会は官僚をも無視して、現実離れした議論を展開しています。
 与党の三方一両損というのも、損をするのは、全て国民で、国や特殊法人は何も損していません。責任は国や特殊法人にあるのに筋違いですよね。
 
 医療の合理化とはいえ、医療とは人が人に対して誠実に手当てする事です。傷を負った人がセルフで包帯を巻くようになるという事態は避けたいものです。
 しかし、そこまでは無くても、それに近い事態は現在でもあるのです。

(2002年1月18日 記)


  医療改革(7)

医療ミスについて
 最近は、医療ミスについて、報道される事が多くなりました、もちろん、最近になって増えたのか、以前に比べて情報が公開されるようになったからか。
 それは、検証の必要はあるのでしょうが、結局のところ個々の医療機関の過去の記録は患者の秘密を公開しないという守秘義務もからまって、検証は困難でしょう。
 医療ミスが起きる人的原因としては、
第一に、人員配置の不足が挙げられます
 医療機関は、10年以上にわたり医療費削減政策によって、赤字の病院が多くなり、又、金融機関の融資の都合もあり、経済面から人員確保が出来ないというものです。
 夜勤医師が少ないので、同時に急変患者が発生して、片方の患者の処置が間に合わなかったとかいうものですね。それと、看護婦不足などで、看護婦の勤務体系が過酷に過ぎ、常に過労状態での勤務というものがあります。
 これについて、マスコミでは、「利益優先の体質」等と報道されますが、大病院で患者は多いが、それでも赤字の病院が多く、利益優先ではなく、人員確保の為の資金が無いのです。それでも、人員確保せよというのは、不可能を要求しているのです、また、金融機関からの融資の事情で赤字にもなれないという場合もあります。
 公立、私立を問わず、大学病院は、研修医を低人件費で(月給数万円〜12万程度)で、夜勤など過酷な勤務体系で使い、人員不足をおぎなったりしています。
 研修医の過労死などが最近報道される事もありました。
第二に、ヒューマンエラーの契機の多さが挙げられます
 例えば、私の関与する薬局について言うと
「医師による処方」→「カルテから処方箋への写し」→「調剤」→「患者への交付」という手順になるのですが、まず第一に、医師の段階では、誤診は無いと仮定しても、病名に対する薬品名の誤り(思い違いなどや、類似名称の薬剤を勘違いなど)、病名と薬品名の一致があったとしても、容量の間違い(報道にのぼるものはこのミスが多いのですね)。
 そして、医師の頭の中にある薬品名と、カルテの記入の不一致があります(記載ミス)。
 さらに、その処方を処方箋に転記するという場面で、写し違いという契機があります。
 薬剤師の場面では、最初に処方箋を見たときに、形式面、実質面(下剤と下痢止めなどの矛盾処方、危険な相互作用の起こる薬剤の組みあわせ、用量の異常)などを審査しますが、ここでの審査もれ。次に、調剤では、薬の取り違え、薬袋への入れ違えがあり。さらに、患者への交付の取り違えが考えられます。
第三に、職員のトレーニング不足があります
 新人さんだけではなく、日々進歩してゆく医療対しては熟練者のトレーニングが欠かせません、それと、実際の医療ミスは、熟練者の慣れが原因である事もあります。
第四に、マニュアルの不備が挙げられます
 例えば、出身大学が違うと、同じ作業でも作業方法が異なり、1人の患者に対する処置を複数の人で引継ぎを伴って行うとき、前任者と作業方法が異なる事による混乱があります。
 もちろん、担当者どうしの引継ぎ、連絡の不備もありますが、その病院としてのマニュアルの徹底をもって、統一した作業が行われるべきなのです。

医療ミス防止への対策
 まず、厚生労働省から配布された、医療ミス防止の為の冊子を参照すると、「ひやりはっと」という、医療ミスを起こしたか、起こしかけて「ひやりとした」という経験をアンケートとして集め、それによって問題点を探求して、マニュアルの見直し、徹底を勧めています。
 各病院によって、マニュアルの見直しの為に、毎月最低一回は、院内感染防止委員会と、医療ミス防止委員会を開くように法制化されています(強制ではありませんが)。
 マニュアルの見直しだけでなく、マニュアルを徹底できるような体制作りも欠かせません。

 次に、ヒューマンエラーですが、主な物は、転記という書類のミスが多いので、電子カルテという方法が推奨されています。
 カルテをパソコン上の電子情報とし、医師がパソコンに所見や処方などを打ち込むと、処方箋や、看護スタッフなどへの指示も電子的に伝送されますから、転記ミスは無くなります。
 さらに、内心的ミス(カルテに書く以前の思い違いなど)は、病名と薬剤の不対応や用量の超過などをコンピューターが見つけて、そういう支持は、赤文字で表示されてしまうなどのコンピューターによる警告が入るようになります。
 薬剤師の面でも、医薬品を計量する前に、医薬品の容器をバーコードに通す事により、処方と異なる医薬品を計量しようとしていたらアラームが鳴るなど、ヒューマンミスを防ぐ試みもあります。

 経済面での、人員確保の要請は、医療のIT化、また、ITに限らず、いろいろな面でのトレーニングが出来る環境作りなど経済的な補強も大切な事と考えます。
 保険制度についても、みんなが考え直す時期に来ています。というか、今では、もう遅い位なのです。

(2002年1月25日 記)
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