どうしたら売れるか

売れるものを売る

昔、私が小売店の店員だったときに、ベテランの先輩に、どうしたら売れるのか聞いたら、
その先輩は「売れるものを売ればいい。」と答えた。

実に簡単な答えだが、その売れるものを探すことが大変だったのだ。
その当時東京のイトーヨーカドーでPOSというシステムが導入されつつあった。
POSとは、バーコードを光で読み取る機械で
今なら珍しくないものである。

一般の人は、これはレジシステムというイメージがあるが、
同時に何がどれくらい売れたかを記録することができるのだ。

従って、売れるものを店舗で在庫し、売れないものは在庫しないという
売れるものばかりが店舗に並ぶようになる。

もっとも、これは売上げを上げるというより在庫管理に重点があった。
小売店は商品を在庫するものだが、
金銭は無限にはないのだ。

素人が脱サラで始めた店舗であると黒字倒産ということがあった。
利益分より仕入れが多くなるといくら黒字でも利益は出ないのだ。

たとえば商品在庫を1000万として、
月の売り上げが300万とし、そして利益率が25%とする。
この場合は300万の25%なら75万の利益があるはずであるが、
その月の仕入れが400万であったなら
結局、25万円損することになる。

経理的には商品を資産として計算するので
余分に仕入れた分は在庫資産となり、黒字に計算されるが、

「いくら仕入れて、いくら売れたか」という意味で
現実にお金は減ってゆくのである。

売れない商品をたくさん抱えると、資金がもたないのである。
在庫を監視していないと、
上の例では1000万より1割程度在庫が増えるだけだが、
素人であれば、それくらいはいってしまうのである。

いや、素人だけでなく、大店舗でも、それは課題であった。
少ないお金で在庫を揃えるというのが目標となり、
POSシステムが普及したのである。

コンビニエンスの台頭

ただ、当時はまだバブル期で平成大不況の前であり
多くの店で、POSシステムは
それほど必要性は感じられていなかった。
 
それぞれの店の仕入れ担当者というのは、
売れ筋商品を熟知していたし、
ベテランの技で仕入れが売り上げを上回らないようにしていたからだ。

POSシステムのようなものは
衣料品など、色、デザインなど多品種を扱う大型スーパーで
主に必用であると認識されていた。

ところが、コンビニエンスストアというものが
全国のあちこちにでき始めた。

言うまでもなくコンビニエンスストアというものは、
少ないスペースの店舗に日常の需要品を一通り置かなくてはならず
各分野のアイテムを効率的に配置しなくてはならない。

売れ筋の上位数品か1品を選ぶ必用がある。
そうなれば、何を在庫すべきか厳しく追及されることになる。
そこでコンビニエンスを中心にPOSは一気に普及した。

さらに、スーパーの方でも不景気の時代に入り
正社員は少人数にして、素人のアルバイトが主力になってきた。
かつての仕入れ担当者の名人芸に頼ることができなくなり、
素人の集団でも店舗運営ができるように
コンピューターによる管理という必要性が出てきて
一気に普及するに至った。

マーケティングの意味

ところで、先述のPOSシステムであるが、
これは資金運用を効率化させるシステムであって
積極的に売り上げを伸ばすシステムではない。

確かに、マーケティング調査によって
現在の売れ筋の傾向はわかる。
例えば、雑誌の読者アンケートによって
面白くない連載もの、面白いと思われている連載の傾向はわかる。

どのような商品を売り込めば売れ筋になるかの傾向は知ることができ、
少なくとも、いくら宣伝費と制作費をかけても売れるようにならないものは
知ることができる。

ただ、このようなマーケティングは売れ筋でないものの排除に主眼があるのだ。
新製品の売り込みの参考にはなるが、
基本的に現在の傾向というものは他社の追随にほかならず、
実際の新製品というものの可能性は未知のものであるからである。

新製品の価値というものは、自分で消費者に訴求し
それが受け入れられるものでなくてはならない。

確かに売れ筋商品を知ることは大切であるが、
そこに顧客から価値が認められるものでなくてはならない。
つまり、売主の側で、どれだけプレミアムを付けられるかが問題なのである。


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